おもちゃ病院伊都国  波多江 保彦さん

  

おもちゃがまた使えるようになれば、思い出を捨てなくて済むでしょ?

福岡県内のNPOやボランティア団体などで活躍する70歳現役人(※)を紹介するこのコーナー。今回は糸島市・福岡市を中心に、公共施設やイベントなどで孫世代の子どもたちが持ってきた壊れたおもちゃを無償で修理する「おもちゃ病院伊都国」代表の波多江 保彦(はたえ やすひこ)さんにお話を伺いました。

(※)70歳現役人とは…年齢にかかわりなく、それぞれの意思と能力に応じて、70歳になっても働いたり、NPO・ボランティア活動などで活躍する人のこと。

 

きっかけは、娘さんが持ってきた「鳴かない電子小鳥」


糸島で生まれ育ち、東京で電機メーカーのエンジニアとして働いていた波多江さん。当時から、その技術を活かしておもちゃ病院の走りのようなことをしていたそうです。実はその最初の依頼主は、ご自身の娘さん。
 「子どもが高校のクラブ活動でキットを使って電子小鳥を作っていたんですが、『うまく鳴かない』と持ってきたんです。分解して電子回路設計上の原因が分かったので、家にあった部品を使って修理しました。“治った”小鳥が学校で友達の注目を集めたらしく、鳴かない電子小鳥が5羽も6羽も集まってしまって」と当時のエピソードを笑いながら話してくれました。その小鳥たち、秋葉原で部品を買い足し、全部修理したというから驚きです。

 

「おじいちゃんは、おもちゃのお医者さんだね」


会社勤めのときは日々忙しく、組織的な活動は難しい状況。退職後に糸島に戻ったものの、1人ではなかなか難しい。そんな中「やっぱりやろう」と心を決めたのは、壊れたおもちゃを修理してあげたときの「おじいちゃんは、おもちゃのお医者さんだね」というお孫さんのひとこと。それから仲間を探し、機械いじりが好きな4人で、平成19年に「おもちゃ病院伊都国」を立ち上げました。

 

確かな手応えを感じた「おもちゃ病院伊都国」初のイベント


おもちゃ病院伊都国の本格的なスタートは、平成19年に糸島市で行われた「子どもフェスタ」(下段写真左)。用意していた20枚の受付用紙では足りず、さらに20枚を追加したものの瞬く間になくなり、なんと午前中だけで38件もの依頼があったそうです。当時のスタッフ4人に対して、初回からこの件数。1回のイベントで受け付ける適切な件数についてはその後の課題となりましたが、充分な手応えを感じた波多江さんは、次のステップに進みます。 


 
△おもちゃ修理の現場。子どもたちもドクターたちも真剣な眼差しです。
 

  

おもちゃ病院の定期開設へ


 これだけ人気があるのならと、次は定期的におもちゃ病院を開設することを目指したのです。運営資金も満足になかった状況で、出てきた課題は「場所」。しかし、波多江公民館の好意で公民館を無料で貸りられることとなり、2カ月に1回のペースで定期開設するようになりました。現在では波多江公民館や糸島市子育て支援センターでの毎月の定期開設や、イベントなどの出張開設で年間およそ30回もおもちゃ病院を開設しています。
 

「完全に元通り」にならなくても「また使えるように工夫する」


おもちゃ病院では「子どもたちの目の前で修理すること」と「完全に元通りにならなくても『また使えるように工夫する』こと」の2点を特に大切にしています。
 ネジ回しなどを一緒に体験することで、壊れたおもちゃも修理できることを知り、良い経験となります。お父さん、お母さんも「えー“治る”んだ!」と感激することも多いそうです。
修理は電池交換のような簡単なものから電気系統の修繕などさまざまですが、タイヤがなくなった消防車のおもちゃにドレッシングのキャップをつけて動くようにしたり、首が折れたキリンのおもちゃを竹のお箸で補強したりと、できることを見つけ、また遊べるための最善の方法を探します。
 波多江さんは「それぞれのおもちゃには、『おじいちゃんに買ってもらった』『サンタさんにもらった』なんて思い出があるものです。元通りでなくても、また使えるようになればまた愛着が湧いて、思い出を捨てなくて済むでしょ?」と、温かい言葉でその思いを語ってくれました。

 

「おもちゃ病院」から「おもちゃ修理体験学習」へ


また、5年前から「おもちゃ修理体験学習」という取り組みを始めています。小・中学生の子どもたちが持ち寄った壊れたおもちゃを、子どもたちが自分で修理するという内容で、主な目的は環境意識の啓発です。指南するおもちゃ病院のスタッフは、「考えさせる。相談にのる。やってみせる。させてみる。手助けする。できたら誉める」という自主性を高める流れを大切にしています。体験学習は積極性・チャレンジ精神が芽生える効果もあり、「将来は、おもちゃ病院のドクターになる!」という子どもまで出てきているそうです。 



△おもちゃ病院を訪れた、子どもから届いた手紙。子どもの喜びが伝わってくる。


原動力は、子どもたちの笑顔と喜びの手紙


治ったおもちゃを手にした時の子どもたちの笑顔や、喜びの手紙をもらうことが、もっともうれしいと言う波多江さん。ある手紙には「おこずかいをいっぱいためてハンダとバッテリーチェッカーなどをかいたいです」とありました。きっと修理を体験したことの記憶が色濃く残っていたのでしょう。他にもドクターの似顔絵が書いてあるものなど、手紙には子どもの喜びが最大限に表現されています。 

「いかに自分がいきいきと暮らすか」が元気のもと


ボランティア活動を続ける意義を尋ねたところ、波多江さんはこれまでの人生で世の中に随分お世話になって生きてきました。だからこそ今、少しは社会にお返しするべきなんじゃないかと思っています。誤解を招く言い方かもしれませんが、定年後はゴルフや旅行などを楽しむ生き方もあると思います。でも、それだけではなく『いかに自分がいきいきと暮らすか』の追求が、元気のもとだと思うんです。それから、ボランティア団体もひとつの『組織』です。続ける原動力は何かと言われれば、うまく説明できないですが、ビジネスマンの本能みたいなものでしょうかね。企画を立てて組織で動いて成功する喜びというのは、会社勤めのときからずっと変わらないもののような気がします」と答えてくれました。


おもちゃ病院伊都国のメンバーは現在25名、平均年齢は66歳でそのうち7名が70歳代(年齢は2013年10月1日時点)。メンバーには男性も女性もいますし、前職も電気・機械・木工などの技術者や理科の先生、銀行員などさまざまです。やってくるおもちゃの種類も多様で、それぞれの得意分野に合わせてひとつずつ丁寧に修理しています。平成22年度の福岡県市民教育賞(地域社会教育賞)や、平成24年度のふくおか共助社会づくり表彰の地域貢献活動部門賞の受賞が、スタッフの自信と活力につながっているとのことです。
 団体のテーマ「知恵と手を出し合って」の言葉通り、メンバーみんなで楽しみながら、連帯感をもって無理なく活動を続ける70歳現役人のエネルギーを感じました。

 
●おもちゃ病院伊都国について、もっと詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください

【ホームページ】

【福岡県ホームページの福岡インターネットテレビ(2月24日分)】

【団体連絡先】080-8390-8154